「京扇子」「京うちわ」は京都扇子団扇商工協同組合の登録商標(地域団体商標)です。
当組合員以外は使用できません 。

 イベントやニュース、ドラマ、歴史でとりあげられた扇子・団扇にスポットを当て、
 詳しくご紹介していくコーナーです
    ■No−01 宇宙へ行った「能」扇子 〜宇宙飛行士・野口さんが込めた「想い」〜
宇宙へ!
これが宇宙に行った「天女扇」だ!
2005年、スペースシャトルの宇宙飛行士・野口聡一さんは、宇宙から小泉首相と対談されましたが、そのとき、マイクと扇子を持っておられたのを覚えていらっしゃるでしょうか?
実は、写真の扇子が「野口さんの」と同じ扇子なんです。

これは、野口さんの父・幹夫さん(神奈川県在住)が、「十松屋福井扇舗」店主・福井芳秀さん(当組合理事長)からご購入されたものです。野口さんのご先祖が京都で扇子屋を営んでおられたというご縁もあり、スペースシャトルから、「和の心」を伝えようとして扇子購入を思いついたとの事でした。

 ところが、2005年10月1日発行の「東京新聞」記事や、福井理事長の話によりますと、帰国した野口宇宙飛行士ご自身の話として、あれにはさらに深い意味があった、との事でした。

 報道写真ではディスプレイ用の「飾り扇(かざりせん)」にも見えたりしますが、これは「能」で使われる本式の「能中啓(のうちゅうけい)」だそうです。
 能では曲や役によって使う扇子に決まりがあり、これは能楽「羽衣」(漁師から羽衣を返してもらった「天女」が空へ帰っていく有名な話)で、正にその「天女」が持つ扇子です。空を翔る「天女」と宇宙飛行士のイメージはピッタリです。
 「宇宙服を着込んでの船外活動では、視界が限られる能面と重い装束をつけながら舞台で滑らかに動く、能の動きが参考になった」との事でした。
 「天女」は女性じゃないか、って? これも実は、野口さんが、シャトルの「女性」船長アイリーン・コリンズさんに「天女」の扇子を持ってもらいたいと選んだそうですよ。(対談のとき、コリンズ船長と一緒に出演され、扇子も持っておられました)

 福井さんによると幹夫さんは、当初の打ち上げ予定でのシャトルへの私物持ち込みを、重量審査時期を過ぎていた事もあり「ムリかもしれない」と言われ、半ばあきらめられていたそうですが、皆様ご存知のとおり、無事、日の目を見ることとなりました。大変喜ばしいことと思います。

 それでは、この扇子についてもう少し詳しくご説明いたしましょう。

構造 一尺一寸五分黒染骨(くろそめぼね)15間(けん)」
先が開いた「中啓(ちゅうけい)」という独特の形
要(かなめ部分)拡大
 「塗り」のような光沢はないが、「染め」ならではのすっきりとした
仕上がりが写真でお分かりいただけるだろうか?
能扇は、親骨(おやぼね:一番外側の太く厚い骨)と中骨(なかぼね:間の薄く細い骨)を合わせて15間(「本」の意味)で構成されます。大きさは約35cm。骨は真竹を使い、女性など「繊細・優美」な役柄には、この扇子のように黒骨を用います(白骨は神様、翁などの役に使う)。骨に着色するのには、日舞などでは「塗り」骨を使うことが多いのですが、
能では「染め」て使います。

 形としては普通の扇子と違い、「中啓(ちゅうけい)」といい、閉じた状態でも先端が中くらいに開くためこう呼びます。元々は僧侶の方などが持たれる扇子で、こうした人たちから頂いた扇子を、役者が舞台で使ったのが始まりかもしれません。

 ちなみに普通の扇子を「鎮扇(しずめおうぎ:先がピタッと閉じる)」、逆に先が広がっているものを「末廣(末広:すえひろ)」と呼びます。そう、今では普通の扇子も「末廣」と言いますが、本来は、こうした一部の扇子の呼び名だったのですね。
 なぜ、先が広がっているかは諸説ありますが、少なくとも鎮扇に比べ実用的ではありません。しかし「閉じていても中の絵柄が見せられる」ことは、役柄によって「キマリ」がある能の中では、演者が「どういう役柄」なのか大体分るので、慣れれば実に便利。

 詳しくは次項で説明します。

絵柄 「妻紅・立木桜図(つまべに・たちきさくらず)」
絵柄が表と裏で対照となっているのも能扇の大きな特長
 「妻紅」「金箔地」「太い幹に満開の桜」「水」「土坡(どは:土手のこと)」で構成されています。
「妻」とは「端」、つまり絵柄の隅(扇面の肩部分)に「紅」がありますよ、いう意味で、「若者の役」を表す「キマリ」なのです。
「桜」は、古くから「木花咲耶姫(このはなさくやひめ)」の依り代(よりしろ:この場合は「ご神木」のようなもの)として考えられていたから、「天女」にもふさわしいとして使われるようになりました。
 こうした「キマリ」が分ってくると、能の世界がより身近になってくると思います。

 表裏共、同じ絵柄を使う場合、能扇は「打抜(うちぬき)」と言う手法を使います。
 写真をご覧下さい。表と裏の絵柄が左右逆になっています。能扇は本来「糊地(のりじ)」という、透き通りやすい紙を使ったため、裏が透けた状態で、表裏の絵柄が重なって見えるように工夫したのが始まりと言われています。
 反対に、日舞で「打抜」を使うと、多人数で舞うときなど、同じ扇子をかざしているのに、各人の扇子の絵柄が揃わない危険があるので「見返し」と言う、表裏まったく同じ向きの絵柄を多用します。


おわりに
能扇について、少しは興味を持っていただけましたか?
日頃お目にかかる機会は少ないと思いますが、伝統文化の正統派と呼ぶにふさわしい知識の宝庫ですので、また機会がありましたらご紹介したいと思います。
なお、このコーナーでは、他の扇子や団扇(うちわ)についてもどんどん取り上げたいと思いますので、ご希望やご意見をお待ちしております。

*この扇子のご購入に関するお問合せは
 居\松屋福井扇舗(075−221−2540)まで
*能扇に関する知識が満載「能を彩る扇の世界」(檜書店・2200円+税)
 書店でお問合せ下さい(居\松屋福井扇舗さんにもあります)
■No−02 扇流し 〜五色扇・五色うちわ〜